
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD264250W1A720C2000000
東大改革へ「グーグル流」注入 多様な人材集う場に
いわむら・みき 東大教養卒、電通入社。スタンフォード大MBA取得。ラグジュアリーブランドなどを経て2007年グーグル日本法人入社。現バイスプレジデントアジア太平洋・日本マーケティング担当。ローソン社外取締役も務める。
企業に限らず、大学でもグローバル化やダイバーシティーの推進は喫緊の課題だ。東京大学は4月に執行部体制を一新。藤井輝夫学長は対話を重視し「世界の誰もが来たくなる学問の場」を目指すという。学長のビジョンを推進する担当理事に就任したのは卒業生であり、グーグルバイスプレジデントの岩村水樹さんだ。今後の取り組みについて聞いた。
――グローバル企業の役員を務めながらの理事就任です。最優先で取り組む課題は何でしょう。
「イノベーティブな組織を生む企業文化について講演したのがきっかけで、理事の話をいただいた。日本のイノベーションを高める上で最も大事なのは教育だ。東大がより開かれた存在になるため、まずはカルチャーを変えたい」
「今はダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂)の考えを共有している。グーグルが取り組んでいるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)や、安心して意見を言い合える『心理的安全性』について話している。教員の意識を合わせ、今秋にも策定するプランに落とし込むことで東大のポテンシャルを解き放つ」
――自身が学生だった頃と比べ、東大は変わりましたか。
「かつて卒業後の就職先は国家公務員や大企業だったが、今はスタートアップに就職したり自ら起業したりする人が少なくない。学内にはインキュベーション施設もあり、スタートアップの集積地になりつつある。東大の知を社会に生かしていこうと産学共創にもとても熱心だ」
「グーグルもスタートアップを支援している。産学連携も含め東大がいろいろなところからサポートを受けて事業主体として伸びていくことで研究力も高まる。学内の面白いアイデアと企業の持つ人工知能(AI)などの力を組み合わせることで社会問題の解決につながる可能性もある」
――世界の中で東大は存在感を示すことができますか。
「研究力・研究実績は評価されている。学術出版のシュプリンガー・ネイチャーが論文実績などを基に発表するランキングで、大学ではハーバードなどに続き東大は4位だ。世界大学ランキングなどを分析すると課題は学生や教員の多様性・国際性にある。イノベーションは一人の天才によって生み出されるのではなく、いろいろな人の問いかけから生まれる。多様性を強化することは、東大のイノベーション力や将来の研究力にもつながる」
「例えば今、海外の学生が東大に留学したいと思うか。研究者が東大で活躍できると思えるか。オンライン授業ででも体験できれば身近に感じて選択肢に入るのではないか。来日して活躍を実感すれば支援者にもなってくれる。そのためにも良い経験、いろいろなバックグラウンドを持った人が活躍できる環境をつくっていく必要がある」
――海外に限らず国内でも、根強い性別役割意識などによって東大の女子学生は2割にとどまります。
「社会の規範を変えるのは大変だ。教員の女性もまだ少ないし、広告などで描かれる女性像も見直す必要がある。グーグルでは、エンジニア志望の女子学生が少ないという問題に対し、女子中高生を招いて女性エンジニアが話をする場を設けている」
「女子学生の目に映る世界を変えること、身近に触れる機会を作ること、そして一歩踏み出すためのエンカレッジ(勇気づけ)が必要だ。東大でも女子学生が母校に行って話をすることがその一助になる」
「東大は変化が起こる場所だ。なぜなら外部と関わることで社会のイノベーターになろうというマインドをもった教職員が大勢いる。だから進学することで性別役割などの意識を超え、自らがリーダーとなって社会を変えられると思ってもらえたらうれしい」